英国籍船マドリーン号の拿捕について

少し遅くなりましたが、6月9日に発生したグレタさんが乗船した英国籍船マドリーン号の拿捕について海洋法及び海戦法規の観点から考えてみました。報道では、国際水域において拿捕された、といったように表現されていますが、これは、イスラエル領海外ということで、領海を越えての拿捕が合法か否かが問題となるわけです。まず、原則として平時(非武力紛争時)において、公海上で外国籍船を拿捕することは、追跡権や公海海上警察権が認められるような、極めて例外的な場合に限られ(海洋法【560】)、今回はその場合にあてはまりません。他方で、武力紛争時においては、海戦法規に基づき、より幅広く拿捕が認められる余地があります。ただし、武力紛争といっても、国際と非国際では、海戦法規の内容も変わり、非国際武力紛争時には、封鎖は認められないと考えられています(海洋法【628】)。ただ、イスラエル=ハマスの紛争を単純な非国際武力紛争と整理することは難しい(この整理については、Classification of the Israel-Palestine Conflict under the Laws of War – Opinio Juris参照)と思われます。そうなると、今回の拿捕が海戦法規に照らして合法か否かが問題となります。この点、戦時封鎖の伝統的な要件である、通知(封鎖を通知していること)及び実効性(封鎖を実効的に行っていること)などは満たしていると考えられ、一番の問題は、学説や実行の観点から議論のある、人道性の観点になると思われます(海洋法【641】)。仮にこの要件が確立しており、かつ高い基準で求められるとすれば、イスラエルが実施している封鎖は、包括的に見れば海戦法規に違反する可能性も極めて高いと言えます。ただ、多数の拿捕を前提とする封鎖については、どの段階でどのように評価するかが最終的な法的評価に影響を与えることになる関係から、マドリーン号の拿捕単体をもって海戦法規違反、と問うのはあまり適切でない気もします。