米国で検討されている大統領令が国際法に違反するか否かは、海洋法条約を批准してない米国が、海洋法条約の規範にどの程度拘束されるのか、という問題と関連します。まず、米国は海洋法条約の非締約国なので、当然、条約そのものには拘束されません。また、深海底について規律する第11部及びその実施協定(海洋法【28】)が慣習法である場合は米国も拘束されうるわけですが、国際海底機構(ISA)という国際機構を設置し、その構成や権限の規律を中心とするこれらの規定は、慣習法としてのイメージがもちにくいとも言えます。また、仮に慣習法だとして、米国は一貫した反対国として、同慣習法規範に拘束されない可能性もあります。さらに身もふたもないことを言えば、仮に国際法違反であったとしても、その認定を求める裁判を米国に対して開始することは、米国が海洋法条約の非締約国であるがゆえに著しく難しいと言えます(海洋法条約の締約国であれば、その解釈適用に関する紛争については、他の国家が一方的に裁判所に付託できる【670】)。米国で大統領令が検討される背景には、ISAでの議論が進まないことに業を煮やしたThe Metals Company(TMC)【203】の動きがあるとも言われています。その背景にあるのは、単純化すれば、環境保全と開発のバランスの問題です【211】。TMCの立場については、このCEOの声明が大変参考になり、また、TMCが米国子会社を使うことに対しては、ISA事務局長も声明を出しています。ISAで生産的な議論が行われ、なんとか海洋法条約の枠組に沿う形で問題を解決できれば良いのですが…。