中国軍機によるレーダー照射の問題について

遅ればせながら、こちらの記事等にある中国軍機によるレーダー照射の問題について。空域での問題ですが、複数の記事で報道されている通り、海洋法の問題ともなります。というのも、公海の自由を規定した87条1項は上空飛行の自由を含み、この自由は58条1項に基づいて排他的経済水域でも保障されるからです(海洋法【158】)。今回の事案が排他的経済水域で発生していても、上空飛行の自由は海洋法条約上保障されているわけです。なお、日中間の問題で日本の排他的経済水域という場合には、日本法上の排他的経済水域であって、国際法上は日本のものとは確定していない未画定水域であることが少なくないため注意が必要ですが(こちらの記事参照)、今回はそういった重複がない水域となります。沿岸国である日本の利益に対し、58条3項に基づき妥当な考慮を払わなければいけないという見解もありますが、個人的には、同項は沿岸国が排他的経済水域に有する権利、すなわち、経済活動に関する権利への配慮に限定されることから(海洋法【327】)、今回のような安全保障上の利益などは含まれないと考えています。ただ、そうであっても、上空飛行の自由を行使するに際しては、87条2項に基づき相互に妥当な考慮を払う必要があり(海洋法【162】)、中国が妥当な考慮を払っているか(中国によれば、日本が払っているかも?)が問題となります。妥当な考慮の中身はケースバイケースに決まる部分が少なくないのですが(海洋法【330】)、レーダー照射が日本の防空識別圏で行われた点は日本に妥当な考慮をしていないという主張を強化するように思います。防空識別圏それ自体は国際法上、制度化されているものではありません。しかし、多くの国が日本と同じような運用をしているため、同識別圏ではスクランブルのような形での対応がなされることは想定する必要があり、そうした対応へのリアクションが過度となることは避ける必要があるでしょう。また、こちらの記事でも言及されている海上衝突回避規範(Code for Unplanned Encounters at Sea, CUES)のpara. 28.1(a)は、主体が「海軍艦艇(naval ships)」となっていることから直接の援用は難しいように思いますが(para. 1.3.3の定義に航空機は含まれないため)、レーダーの照射が妥当な考慮を欠くものであるとの主張を強化するものとしての援用は可能かとも思います。訴訟でも起こさない限り、法的な議論がどこまで有用なケースかは分かりませんが、海洋法的にはこうした整理になるのかと。