ホルムズ海峡の規制について

これまた今更感がありますが(タイムリーにこうしたことを発信できている同業者を改めて尊敬)、標記、ホルムズ海峡のイランによる規制について。こちらの記事にある通り、国際法の観点からの発信も行われていますが、基本的に、平時の海洋法の観点からの分析が多いかと思います。平時の海洋法の観点からは、ホルムズ海峡には通過通航権が認められると思われるため(海洋法【149】)、イランが慣習法に違反する可能性が高いです。イランは海洋法条約の非締約国ですが、特定の海峡には通過通航権が認められることは慣習法上の規則であり、かつ、イランが一貫した反対国としての立場を有するわけでもないとすると、こうした結論が導かれるかと思います。他方で、実はこうした議論は、今回の問題の結論を出す上で十分とは言えません。というのも、2026年2月28日以降、米国とイランの間に武力紛争が存在していることは明らかであるため、海戦法規が適用されることとなるからです(海洋法【599】)。しかし、海戦法規上も、サンレモマニュアル27段落に基づけば、通過通航権は武力紛争時でも保障されなければならないとなっており、同マニュアルが慣習法規則を反映しているものとみなされるのであれば、イランは自国措置の正当化を行うことが難しいと思われます。また、32段落では中立国船舶の無害通航権が規定されています。ただ、このマニュアルの規定については異論もあり、極限状態においては例外も認められるのではとの指摘もあります(こういった学説も含む形で海戦法規については、Lott先生がこちらでまとめています)。さらに留意しなければならないのが、仮に違法行為であっても、国家責任条文21条等に基づけば、自衛権行使の文脈で正当化される可能性はあるといえます(海洋法【598】、この自衛権による正当化の可能性を指摘するものとして篠田先生のこちらの記事)。ただ、そうした観点で臨検が正当化され得るとしても、自衛権の必要性や均衡性という要件に照らして、金銭を徴収するといった措置や中立国と位置付けられる国の間でも差別的な取り扱いをする、ということは正当化しにくいように思います。日本は特定海域の制度を設け(海洋法【142】)、通過通航権が認められる自国領海はない、という立場をとっているため、イランと同様の問題は生じにくいかもしれません。ただ、トカラ海峡のように、他国(といっても中国のみ?)が通過通航権が認められるべき、と主張している海峡があることに鑑みれば、武力紛争時でも通過通航権は絶対的なものだ、と主張しすぎるのも危険な気はします。