こちらの声明の13段落2行目で、日=フィリピン間で海洋境界画定のための交渉を始めるとしています。日本が画定した境界はこれまで、1974年に韓国と締結したいわゆる北部協定しかないため(海洋法【242】)、気が早いかもしれませんが、EEZ及び大陸棚の境界を画定する協定が結ばれるとなれば、50年以上ぶりとなります。日本とフィリピンの間での境界というと、イメージがわきにくいかもしれませんが、与那国島らへんから南、フィリピンのイットバヤットやその北のヤミ島などからさらに北の水域の幅は400海里未満で、EEZ等の権原(潜在的にEEZを持つ根拠)が重複し、境界画定が必要ということです。声明で興味深いのが、「関連する国際判例を参照しつつ」としている点です。海洋法条約に基づけば、境界は当時国の合意があれば、ある程度好きに結ぶことができることになっています(海洋法【233】)。そうであるにもかかわらず、国際判例を参照すると明記したことは、両国はもしかしたら、3段階アプローチを用いて境界を画定することにも、なんとなくの合意があるのかもしれません(海洋法【237】。さらに東シナ海の境界画定についてはこちらの動画も)。同アプローチは、暫定中間線を引くことから始まりますが、与那国らへんとイットバヤットらへんの真ん中を通って緯度と並行からほんの少し右下がりとなるような線が、暫定中間線のザクっとしたイメージでしょうか。その線を軸に多少ずらす、というのがありそうな線の引き方と思われます。また、この件については、中国が直ぐに強く批判しています。上述の日比の中間となる点に最も近い陸地は、日本でもフィリピンでもなく台湾なので、台湾も中国領土という北京政府の立場に立てば、自国も含めての境界画定が必要という主張であれば分かります。確かに、海洋法条約74条1項に基づけば、この水域の最終的な境界画定には三か国が合意する必要があります。しかしだからといって、こうした水域の境界画定に際して、始めから最後まで三か国で足並みをそろえ交渉して合意しなければならない、とは海洋法条約には書いてありません。確かに、そのような形で交渉をして、三か国条約の形でトライポイント(三か国の境界が重なる点)を含む境界画定を行う場合もありますが、そうしたケースの先例はそこまで多くありません。むしろ、三か国のうちの二か国が先行して交渉を行い、二国間で境界を画定した後、さらに別の二か国、さらに残った二か国と、三つの二か国間条約を調整してトライポイントを設定する方が一般的な印象です。いずれにしても、日=フィリピン海洋境界画定条約ができたとて、当該条約は非締約国である中国を拘束するわけではありません。そのため、中国が交渉が無効であると主張したり(訳の問題な気もしますが、そもそも、交渉が無効、というのは変ですよね…)、交渉が海洋法条約に違反すると批判することは、国際法の観点からはほとんど説得力がないように思われます。むしろ、74条2項は、「合理的な期間内に」境界画定の合意ができない場合は、裁判などを規定した海洋法条約第15部を用いることを規定しており、海洋境界の画定は海洋法条約上強く要求されていると言えます。実際国際裁判所も、こうした場合に二国間の境界画定を進めるための裁判をこれまでに行ってきています。